シャルルマーニュ伝説の文献比較

最近忙しい。以前からシャルルマーニュ伝説の文献が、日本で入手できるものをあらかた読んでいるので、その比較などしてみようと思う。暇があればHTML化してホームページに転載する。とりあえず、入手がしやすいと思われるやつから順に記載。

シャルルマーニュ伝説 中世の騎士ロマンス (講談社学術文庫)

シャルルマーニュ伝説 中世の騎士ロマンス (講談社学術文庫)

講談社学術文庫から出ているやつ。網羅的に書いてくれているので、初心者向けである。トマス・ブルフィンチの作品なので自信を持ってオススメできる。絶版でもないし安価なので、非常に入手しやすい。もとは現代教養文庫から出たのを、出版社変えて発行したみたい。そのため解説を読むと、「狂えるオルランドはまだ和訳がない〜」などと書いてあったりもする。出版年度を見て首をひねったものである。ローランやリナルドたちのほか、ユオン・ド・ボルドーオジェ・ル・ダノワ等の紹介もあって非常に面白い。ただ、ルッジェーロとブラダマンテに焦点をあてているため、その代償として削られたエピソードもある。ダイジェストなので『狂えるオルランド』など原典を読んだ後比べると、やや面白さに欠ける。オルランドが海魔オルクを対峙するシーン、リナルドスコットランド行きがカットされたり、戦うヒロイン・マルフィーザの活躍は大幅にカットされてしまっているのが残念。特に、オルランドリナルドは活躍を削られる程度で済んでいるけど、マルフィーザなんて性格自体が原典と違ってる。

シャルルマーニュ大百科―MO‐L萌える大百科

シャルルマーニュ大百科―MO‐L萌える大百科

萌える大百科シリーズ。最近のなので入手はしやすいと思う。私は思わずタイトル買いしたが、駄本、としか言いようがない。どうもこの本の著者、『狂えるオルランド』を読んでいないらしいのだ。そのくせ、巻末の参考文献に『狂えるオルランド』が出ていると言う・・・。上記の講談社学術文庫のを主な参考文献にしたのではないかと思う。マルフィーザの説明について、「戦闘シーンは見られなかったが、それなりに強いのだろう。」という趣旨の記述にはどうも・・・。『狂えるオルランド』で普通に「第2のマルス」と呼ばれるフロリマールを打ち負かしたり、オルランドと結構いい勝負をするシーンがあるではないか。また、オルランドの特殊能力として「皮膚がダイヤモンドの硬さで、刃物でダメージを与えられない」などという『狂えるオルランド』を読めば当然書くようなことが書かれていなかったりする。「講談社学術文庫さえおさえればそれでいいや、原典は分厚いから読まなくていいでしょ」、という作り手の心の声が聞こえてきます。あと、巻末の小説が「無限空間」さんのと非常に類似してる。翻案をやればだいたい着眼点は似通うから仕方ないとは言え、剽窃の一歩手前、と言ってもいいのではないか? キャラを女性化しているのは別として、欠点を挙げればキリがない。人物に焦点を当てた列伝形式をとっているところは一応評価できる。お金が余っていたら買えばいいのではないかと。

ロランの歌 (岩波文庫 赤 501-1)

ロランの歌 (岩波文庫 赤 501-1)

岩波文庫なので、図書館に行けばたぶんある。『狂えるオルランド』の後日談で、ロンスヴォーの戦いを描く。かなり大きい書店に行かねばないだろうから、入手は簡単でもないが難しくもない。面白いか、と言われれば疑問符がつく。特に手に汗握るようなものでもなく、たんたんとパラディンたちが死んでいく。とくにロランに感情移入できるわけでもない。あらすじだけ知っていればいいのではないかと思うよ。

狂えるオルランド

狂えるオルランド

原典。ハードカバーで1万円を超える価格であり、金銭面で入手は難しい。図書館で借りるのがベスト。最初は文体に手間取ったけれど、慣れれば読みやすい。講談社学術文庫でカットされたオルランドやマルフィーザのエピソード、その他が収録されている。実際に、講談社学術文庫のは文庫1冊で収めるためにダイジェストになっているため、読んで手退屈な面があるが、こっちは原典なので、非常に生き生きとしている。先に講談社学術文庫の方を読んでネタバレしてても充分楽しめる。ていうか、軽くネタバレしといて世界観を抑えてからの方がいいのかも。欠点として、作者のパトロンであったエステ家への賛美が唐突に入るけれど、そこは適当に読み飛ばせばいいです。


ドイツ民衆本の世界 〈5〉 ハイモンの四人の子ら 図書館刊行 ISBN 4-336-02705-6

おそらく最も入手は困難。たぶん、絶版。私は運よく図書館で発見したけど、amazonには表示すらされなかった。紀伊国屋Bookweで表示されるけど、在庫はなし(参照)。『狂えるオルランド』の実質主役であるブラダマンテの兄、リナルドを主人公にした物語。「リナルド」はイタリア語なので、ドイツ語風に「ライナルト」になってます。内容は、フランスの叙事詩「エイモン公の4人の子ら」とたぶん同じ。なぜかフランスの方でなくてドイツの方のが先に翻訳されてしまったようだ。面白さはそんなたいしたことはなく。講談社学術文庫のを読んでおけば、それでいいです。

不在の騎士 (河出文庫)

不在の騎士 (河出文庫)

シャルルマーニュ伝説そのものでないけど、暇があれば読めばいいです。薄いし、安い。ブラダマンテがヒロインをやってます。